京都新選組同好会史(九)

(一)同好会結成へ
(二)同好会結成の夜
(三)池田屋事変記念パレードの準備
(四)堀川警察署「署長室」での1時間
(五)第1回 池田屋事変記念パレードの日(1)
(六)第1回 池田屋事変記念パレードの日(2)
(七)テレビ番組への出演
(八)時代祭参加への初動(1)
(九)時代祭参加への初動(2)


時代祭参加への初動(2)

京都新選組同好会副長 土方歳三こと奈良磐雄


平安講社からの返信のコピー

 明治28年に創設され100年の歴史を持つ京都の三大祭の一つである時代祭に、新選組を登場させるべきだと、元締めの平安講社に直談判に乗り込んだ我々京都新選組同好会の幹部8名は、平安神宮社務所の応接室へ通され、お茶の接待を受けながら5分ほど待った。応対に出てこられたのは神主装束の平安講社総長の竹内忠治氏と、副理事長の杉本三郎氏であった。我々が事前に送っていた同好会の資料を見て頂いていたようで、丁寧な応対であった。

 さっそくですがと断わり、用意していた嘆願書を副長の私が読み上げ、我々のかねてからの願いである「新選組を時代祭行列に参加させる」という願いを伝えた。だまって聞いて居られたお二人のうちの総長が「ご意向はよくわかりました、即答できる問題ではないので、慎重に考慮させていただき、後日返事をすることを約束します」との答えを頂いたので、我々は引き上げることとした。
この会談の一部始終もテレビカメラは撮りつづけた。

とても丁寧な応対に気をよくして、ひょっとすれば参加許可の返事がもらえるのではと思っていた我々の元へ1か月後に下記内容の回答書面が届いた。

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昭和五十四年十一月十五日

平安神宮宮司 三條實春
平安講社総長 竹内忠治

京都新選組同好会
代表 横田俊宏 殿

拝啓 時下益々御清栄の段欣慶に存じます
さて過日時代祭の行列に新選組参加の希望に付きましての陳情書の趣を拝見各位の真摯な御熱意に対し深い敬意を表するものでございます 熟慮致します処時代祭の行列は平安京千年の古都の歴史と文化を服飾の上に表現し平安京創始の淵源をたどり平安神宮御祭神の偉大な業績を称え遷都記念の日を顕彰することによって京都が永遠に栄えるべき発展の基たらしめむとの意図により設けられたものと推察致します 行列はそうした祭の意図する処に基づき歴代斯界の専門家が創意と工夫を凝らし心血を注いでの研究の成果として編み出されものでありまして先賢の貴重な文化遺産と申さなければなりません 斯様な意味から致しましても現在の行列の姿を安易に改変することは慎むべき事と考慮するものでありますが時代祭執行の母体たる平安講社に於きましても過般の中枢部に於ける慎重検討の結果も亦同一見解に到達し誠に不本意乍今回申出の趣旨は郷土の歴史としては十分理解せらるる処乍ら行列参加の点につきましては一応留保致したいとの決定に立至つた次第であります
不悪御諒解下さいますよう
右御回答まで申上げます

拝 具
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さらに次の文面が続く

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時代祭は平安京の祖と仰ぐ平安神宮御祭神の高徳を称え 報恩の至誠を表す市民の祭として創始され 行列は古都京都が持つ千年の歴史と文化を海外に宣揚し 郷土が誇る高度な産業を 行列の服飾装具を通じて世に紹介し その発展に寄与せしめんとの崇高な意図に出でたるものであり 長い歴史を集約し 時代の変遷を風俗によって巧に表現した処には先賢の英智がうかがわれ 偉大な業績と云わなければならない 然し乍ら行列を単に歴史的な観点のみから之を評すれば 必ずしも十全を期し得たものとは云い難いであろうし 為に兎角の意見が生ずることも又止むを得ない諸種の制約下にあって完璧とは行かないまでもその成果は 先づ先づ当を得たものとして 大いに称賛さるべきものであることは歴代の考証家を始め 関係者の斉しくこれを認めて来た処である
戦後追補された維新志士列も亦 そうした先賢の意図せし処を慎重に推慮の結果編成されたものと承わって居り 当時の民間志士の活躍が結果的には近代国家への道を開き やがて時代を転換せしむる動機となった事実を大局的に示された行列であり 見方は如何様にあっても個々の顕彰を考慮した意味のもので無いと理解している
上記理由の外諸種の事情も考慮され 現在の行列の姿を改変することは先賢の素志にも顧みて至難なことと思考する

昭和五十四年十月五日

平安講社本部

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これを読んでわかるよう、大変丁寧に断わられたのである。時代祭執行母体が新選組を行列に加えたくないと考えていることがはっきりしたので、時期がくるまでそのままにしておき、京都新選組同好会が独自でアピールを続けていく事とし、今年で18回を数える「池田屋事変記念パレード」を実績として積み上げてきたのである。
昨今、時代祭は「市民不在の観光客相手の祭になってしまった」との酷評も聞く。100年以上続いてきた素晴しい祭行列に、今一度市民の目を向けさせる為にも平成の改変が断行されてもいいのではないだろうか。新選組は不滅であり、我々京都新選組同好会はいつでも出動する準備が出来ている事を、現在の平安神宮宮司の一条氏にお伝えする必要があるような気がする。